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「個性」の生かし方 コンテクストに着目し能力を引き出そう

今回は「仕事における個性」というテーマでお話ししたいと思います。

企業の皆さんは、従業員の個性が大切かと聞かれれば、おそらくほとんどの方が「大切である」とお答えになることと思います。

ですが、実際に採用や人材育成、配置転換等の現場においては、従業員それぞれの個性に着目するのはなかなか難しいのではないかと思います。

例えば、採用の現場で新たに経理担当者を募集しているのであれば、まず簿記に関するスキル(資格等)や、過去に経理職を経験しているかどうかといった情報でふるいにかけ、採否を検討していきますね。

ところが、実際に採用してみると、組織の文化にフィットしなかったり、思っていたよりも能力が足りないといったミスマッチは頻繁に起こることと思います。

また、人材育成や配置転換といった場面においては、その従業員が営業担当者として採用されたのであれば、その人のキャリアは主として営業部門のなかだけで描かれる(営業担当→チームリーダー→課長→営業部長→役員等)ことは少なくありません。

仮に、営業業務よりも経理業務に適性があると従業員本人や周りが気づいていたとしても、適性にあった配置転換がなされるケースはあまり多くないように思います(結果として、その従業員はキャリア転換を図るために転職をしてしまうでしょう)。

このように、従業員の個性にあまり着目しなかったことによって、企業にとって損失が発生するのは非常にもったいないことだと思います。

今回は、個性学という学術分野の知見を参考にしながら、どのように従業員の個性に着目し、それぞれのパフォーマンスを高めていけるかについて検討したいと思います。

参考文献は、『ハーバードの個性学入門 平均思考は捨てなさい』です。

平均的な人間は存在しない

まず、個性学は「平均的な人間は誰もいない」というシンプルな発想を前提とします。

わかりやすい例ですと、私たちの身長や体重については政府統計などで発表されていますね。

https://www.e-stat.go.jp/

そこで、身長と体重に加えて、胸囲や、腕、足の長さといった身体の様々な部位の平均を算出して「完璧な平均人」を作り出してみるとします。

そして、完璧な平均人にぴったりフィットするスーツを作ってみるとしましょう。どれだけの人がそのスーツを着用することができるでしょうか?

結論は、誰も着れません

人によって腕や足の長さといった身体の各パーツの大きさが微妙に異なっているからです。必ず寸法の調整が必要になります。

身近なシーンでイメージしていただくと、皆さんが洋服(特にズボン)を買うときは、たいてい裾上げしますよね。アパレルメーカーはS・M・Lといったサイズで大量生産していますが、「MとLの間くらいがちょうどいいのに」といったことはよくある話だと思います。

仕事の能力においても上記と同じ考え方ができます。つまり、平均的な能力を有する人材は存在しないということです。身体の各パーツと同じように、仕事の能力も人によってバラツキが存在するからです。

コンテクストに着目しよう

個性学においては「才能は特別はコンテクストで発揮される」と主張します。コンテクストとは、ざっくりいうと「この条件であれば、この行動または態度をとる」ことです。

例として、普段何も話さない人(仮にAさんとしましょう)が急に流暢に話し始めるシーンをイメージしてみてください。あなたはAさんのことをあまり知らないので、急に話し始めたことでびっくりするかもしれません。

ですが、次の条件が加わるとどうでしょう? その人はエンジニアで、情報システムのことであればなんでも知っています。さらにセキュリティ技術に精通していて、新しい技術を誰かに知って欲しくてたまらない状態だとします。

あなたは、顧客からのリクエストを受けて社内のセキュリティを強化したいと考えていますが、専門的な知識を持っていなかったので、たまたま隣にいたAさんに話を聞いてみることにしました。

こうすれば、Aさんが流暢に話し始めた理由をイメージできると思います。得意領域に関する質問(条件)からの外交的な会話(行動)というコンテクストです。 

採用候補者を見極める

仕事においても、このコンテクストの原理を応用できます。

ところで、採用の現場において、下記のような応募条件を提示することが多いのではないでしょうか。

  • TOEIC ●●点
  • 日商簿記 ●級
  • 営業経験 ●年
  • コミュニケーション能力がある 等

著書において、上記の応募条件はすべてコンテクストを無視していると述べます。

資格の点数や保有状況は平均スコアからどれだけ秀でているかを示すもので、その採用候補者がどのような条件でパフォーマンスを発揮するかを示すものではありません。

また、「コミュニケーション能力」という言葉もやや定義が曖昧です。売上や費用の数字を経営層に正しくレポートするという意味でのコミュニケーション能力なのか、顧客との信頼関係を構築するという意味でのコミュニケーション能力なのか等、業務によって捉え方が異なってくるでしょう。

よって、採用の現場においては、業務上の必要な能力を具体的に洗い出したうえで、過去に似たような経験をしているか(配属予定の現場と似たような条件において、パフォーマンスを発揮していたか)を候補者にヒアリングするとよいでしょう。

冒頭の経理担当者を採用する例で考えると、業務内容が「他部署からの経費をもれなく集めて正しく計上する」ということであれば、「他部署の人から協力を得られるような会話を難なくこなすことができる」という意味でのコミュニケーション能力が求められるでしょう。

採用を検討するにあたり、上記のコミュニケーション能力の優先度が高い場合は、経理業務の経験や資格を持っていなかったとしても、他部署との調整業務を行っていた人であれば適性があるといえるかもしれません(もちろん、経理担当者であれば一般的に作業の正確さが求められますから、そのあたりの能力を確認することが前提となりますが)。

採用の現場において、表面的なスキルや経歴だけで採用しようとするとほぼ他社との取り合いになることかと思いますが、上記のようなコンテクストに着目した採用であれば、他社との競争を回避しつつ自社にとって最適な人材を確保することが可能となるでしょう。

隠された才能を発掘する

採用後の育成や配置転換という観点では、従業員に対して様々な業務にチャレンジできる環境を整えつつ、「どのような条件においてパフォーマンスを発揮するか」を定期的に確認するとよいでしょう。

もし、経理担当者として採用後、資料作成業務を行わせた場合において、デザインの能力が優れていることがわかった場合は、資料作成の業務ウェイトを高めるとともに、企業のホームページのデザインといったデザインに関連する業務を増やすとよいでしょう。

このように、コンテクストに応じて業務内容を柔軟に変更することで、従業員の隠された才能や能力を発掘することが可能となります。従業員にとっては自分の得意分野に多くの時間を注げるようになるため、自然とやる気が高まります。従業員のパフォーマンスが高まることは、企業にとっても大きなメリットだと思います。

配属後のキャリアがチームリーダー→課長→営業部長→役員等といった一本道のものではなく、業務内容やスキルに応じてキャリアに多様性を持たせていくことが今後より重要となるのではないでしょうか。

[参考文献]
トッド・ローズ 著,小坂 恵理 訳『ハーバードの個性学入門 平均思考は捨てなさい』

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