個人を対象にしたインセンティブ制度はもう古い? チームのやる気を高める人事評価の考え方

今回は人事評価のテーマでお話ししたいと思います。

従業員の方々のやる気やモチベーションを高めるための評価制度のひとつとして、個々人の業績や成果に応じて報酬を支給するようなインセンティブ制度が有効だと考えられていますね(ここでの報酬は、金銭による現物支給だけでなく、ストックオプション付与のような将来の報酬を期待させるものも含まれます)。

企業の皆様においても、このような評価制度を導入されている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。

一方で、高いパフォーマンスを上げている従業員に対して多くの報酬を支給したにも関わらず、その従業員のパフォーマンスがなぜか低下してしまったり、会社の評価に関して社内で不公平感が高まってしまい従業員同士の人間関係が悪化するようなことも一部ではあるのではないでしょうか。

このようなことがなぜ起こるのでしょうか。理由として、上記のインセンティブ制度の設計そのものに欠陥があるという指摘があります。

つまり、従業員個人を対象に支給するという発想自体に問題があるというのです。

今回は、従来のインセンティブ制度の問題をもう少し掘り下げつつ、別の視点からインセンティブ制度のあり方を見直してみたいと思います。

参考文献は、『愛と怒りの行動経済学 賢い人は感情で決める』です。

まずは、従来のインセンティブ制度の問題について著書の内容を参照します。

 個人へのインセンティブは各従業員の働きぶりを詳細に観察する必要があり、これは実行がむずかしいので、人事部は的をはずしがちな評価基準を用いるときが多い。そのために従業員は本来の仕事ではなく人事評価を高めることに労力をつぎこんでいる。根拠の弱い基準によってボーナスを決めればインセンティブ制度はゆがめられ、さらには不満や妬み、不公平だという思いを従業員たちにいだかせ、調和のとれたチームワークではなくチームの内輪揉めをもたらしかねない。

 人事部がよく用いる評価基準のひとつに、水平的評価がある。従業員が同僚の働きぶりを評価し、ときには順位付けするというものだ。同僚を差し置いても自分がめざましい業績をあげることに野心を燃やし、チームワークの価値がかすんでしまっているような競争主義的な労働環境では、水平的評価の信頼性が乏しいのは論を俟たない。こうしたシステムのもとでは、従業員は自分の地位を脅かす同僚の業績を過小評価し、あとでお返しをしてくれそうな同僚を褒め称えるというインセンティブを持つ。どのみち評価は主観的になるので、このインセンティブどおりにしても嘘をついたと責められずに済む。

いかがでしょうか。

私もサラリーマンとして水平的評価を経験したことがありますが、自分の同僚を評価するというのは非常に難しく感じました。

著書のとおり、その評価対象者が自分にとってどのような利害関係を有しているかによって判断が変わってくるのはとても納得できます(もちろん公平に評価しようと努めてはいますが、主観的なバイアスを避けるのはなかなか難しいです)。

では、インセンティブ制度のあり方として、どのようなものが効果的でしょうか。

結論を先に述べます。

 はるかに効率的なのは、チームワークが成功したら報酬を与え、さらにチームのなかで最もよく働いた従業員に少しだけボーナスを追加するインセンティブ制度だ。こうすれば、チームの連帯感と個人の達成欲求を結びつけられる。

チームワークに対するインセンティブの具体例として、かつて経営危機に瀕していたコンチネンタル航空が、人事評価制度の見直しによって劇的な回復を見せた事例を挙げています。

 経営陣は、会社を存続させるためには従業員に与えるインセンティブを変えなければならないと、正しく理解していた。航空便の定時運航は、鎖の最も弱い環に左右される「生産工程」に等しい。いくつもある出発前の点検や準備がひとつ遅れるだけで、航空機が離陸するのは大幅に遅れてしまう。何度も会議を開いてこの問題を分析した経営陣は、会社を消滅から救う起死回生の策として、「ゴー・フォワード・プラン」と称する計画を実行した。

 ゴー・フォワード・プランの核となったのは、月間の定時発着率が全航空会社中五位以内にはいったら、そのたびに全従業員に六五ドルのボーナスを出すという約束だった。プランの効果は即座に劇的な形で現れた、一年後の一九九五年には、コンチネンタル航空は六億一九〇〇万ドルの赤字から、二億二四〇〇万ドルの黒字へと回復していた。

さらに、チームワークに対するインセンティブが有効であることの心理学的な背景として、著書では「横並び行動」という現象を挙げています。

横並び行動とは、ざっくり説明すると「人間は他の多数の人間の意見や行動を真似る」という心理のことです。

例えば、皆さんがパスタを食べたいと思ったときに、目の前に似たようなパスタ屋が2軒並んでいるとしましょう。片方のA店は行列ができていて店内も賑わっていますが、もう片方のB店は閑散としていて客も数人しか入っていません。皆さんはどちらのパスタ屋が魅力的に見えるでしょうか? おそらくA店が魅力的に映るのではないでしょうか。

冷静に考えれば、一皿1,000円前後のパスタであれば、そこまで味や品質に大きな差が出るとか考えにくいでしょう。よって、たとえB店を選んだとしても、皆さんが大きな損失を被る可能性は低いといえます。

それでも皆さんがA店を選ぶのは、他の多数の客が並んでいるという情報に基づいて、「この店は美味しい可能性が高い」と判断したことが理由として考えられます。

この横並び行動を職場のチームワークにあてはめるとどうなるでしょう?

同僚のほとんどが労力をつぎこんでいないとわかっているかそう信じている場合、従業員は自分も仕事にあまり労力をつぎこまない。だが、同僚たちが勤勉に働いていると信じている場合、従業員は自分も勤勉に働く。

つまり、チームワークに対するインセンティブとすることで、チーム全員で頑張るモチベーションを引き出しつつ、個々人のサボる動機を減らすことができます

もし個人がサボってしまうと、チームワークは瞬く間に崩壊し、結果として、その個人を含めたチーム全員が報酬を得られなくなる可能性が高まります。

サボることで報酬がもらえなくなるのであれば、その個人はチームに貢献して報酬を得ることが合理的であると考えるはずし、先程の横並び行動によってチーム全員が勤勉になれば、サボることに対する心理的な動機もなくなります。

もし企業の皆様のなかで、インセンティブ制度の運用が「うまくいっていないな」と感じることがあれば、上記のようなチームワークに対するインセンティブ制度の設計をご検討いただくと良いのではないかと思います。

是非参考にしてみてください!

[参考文献]
エヤル・ヴィンター 著,青木 創 訳『愛と怒りの行動経済学 賢い人は感情で決める』

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