「多くの人が言っていることが正しい」とは限らない

いきなり質問で恐縮ですが、皆さんは何かの判断を行う場合にどのような情報を集めますか?

個人のレベルであれば、進学先や就職先の検討、人生の伴侶を選ぶといったライフイベントに関するものをイメージしてみましょう。企業のレベルですと、事業方針の決定や採用候補者の選定といった、経営に関する意思決定が当てはまるでしょう。

判断の内容によって集める情報はいろいろあると思いますが、概ね共通しているのは「他者の意見」だと思います。

概ね「他者の意見」は物事の判断を行う上で有益に作用することが多いように思いますが、これがなかなかクセモノで、「他者の意見」に依存しすぎることでかえって判断を誤ってしまうといったケースもいくつか見受けられます。

代表的なものでいうと「多くの他者が言っている意見は正しい」という誤解によって生じるエラーです。数百年前まで誰もが地球は平面だと思っていたのですが、そんなことはないですよね。

今回は、このような多数派の意見に従うことで判断を誤ってしまう事例を紹介するとともに、このような判断ミスをどのようにすれば防げるのかを考察したいと思います。

参考文献は『事実はなぜ人の意見を変えられないのか−説得力と影響力の科学』です。

口コミを鵜呑みにすべからず

ところで、企業の皆さんは商品の仕入などの業者選定をどのように行っていらっしゃいますでしょうか。

元々取引のあるところからの紹介といったケースもあるかもしれませんが、そういったつながりが全くない状態で業者選定を行わなければならない場合、おそらく口コミサイトなどの評判を頼りにするのではないかと思います。

皆さんは口コミに頼って業者選定を行った結果、こういった経験をされたことはないでしょうか。口コミでは良い評価がついていたが「実際に取引をしてみるとそこまで良い商品ではなかった」であるとか「サービスが思っていたものとは違っていた」という具合です。

実はこの口コミの評価にカラクリがあり、研究によると次のとおり説明されます。

ニューヨーク大学で博士号を取得し、現在フェイスブック社に勤務しているショーン・タイラーは、既存の評価や口コミがその後の評価にどう影響するかという研究をしている。調査によってわかったのは、コメントを操作して最初に高評価のレビューを掲載すると、それに続く好意的なレビューの数は通常より三二%多くなり、実験終了時の総合評価はなんと二五%も上昇した!

つまり、最初の口コミの評価が高ければ、その後に続く口コミの評価も高くなる傾向になるということです。逆も然りで、最初の評価が低ければ、その後の評価も低くなると考察できます。

ということは、本当は良い業者にも関わらず、たまたま最初の口コミの評価が低かったがために、全体の評価が下がっているというケースもあるかもしれません。

口コミサイトの評価を見る場合は、総合評価だけではなく、個々のコメントの内容を読み、その業者のどこが良くてどこが悪いのかを見極めていくことが重要となるでしょう。

真実が集団の力によってねじ伏せられる

今度は企業内部の意思決定について考えてみましょう。

よく会議などであるかもしれませんが、一人の社員が発した意見に対して他の社員が同調した場合、同調の意思表示をする前に比べて、反対意見の出やすさに差があるように思いませんか? 特に同調したのが社内で権限のある人であった場合、より反対意見が出にくくなるのではないでしょうか(会議が終わったあとで「実は私は反対だったが、あの場では言いにくかった」と愚痴をこぼす社員がいても不思議ではありません)。

このように、自分と異なる意見が多数派である場合、その人は自分の意見を言いにくくなるということが研究によると明らかになっています。

実験では、参加者があるドキュメンタリー映画を鑑賞します。映画のなかで女性が警察に逮捕されるシーンがあるのですが、参加者はそのシーンで女性が着用していた服の色を答えます。

参加者は5人で、うち4人は研究者側のアシスタントです。とりあえず、純粋な参加者をAとして、アシスタント4人をB〜Eとしましょう。

映画のなかで女性が着用していた服の色は赤で、Aも赤だと思っていました。ところが、B〜Eの全員が白と答えました。Aは多くの他者の意見に従うでしょうか、それとも自分の答えに自信を持って赤と答えるでしょうか。

実験に参加した人々は七〇%の割合で、ほかの参加者による誤回答に従った。自分は正しいと思っていたにも関わらず、その自信は集団の力によって打ち砕かれたのだ。 

いかがでしょう。これは海外の研究ですが、より集団志向の強い日本であれば、より他の誤回答に従う可能性が高くなるかもしれません。

もし、企業において重要な意思決定を行おうとしている場合、反対意見が出ることなく順調に進んでしまうことは、ある意味危険な現象だと思います。本当は赤なのに白だと勘違いして突き進む可能性があるからです。

反対意見がなく、議論が順調に進むことは人間にとってとても心地よいものだと思いますが、順調なときこそあえて立ち止まって「何か見落としていることはないだろうか」と疑問を投げかけたり、「反対の立場が正しいと仮定して議論してみよう」と無理にでも反対意見を絞り出す工夫が必要になるのではないでしょうか。

[参考文献]
ターリ・シャーロット 著,上原直子 訳『事実はなぜ人の意見を変えられないのか 説得力と影響力の科学』

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