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不正行為の未然防止のメソッド。不正行為が行いやすくなる状況とその対策について

今回は不正行為が発生しやすいシチュエーションと、不正行為を未然に防ぐために対策についてお話ししたいと思います。

企業にとって、役員や従業員の不正行為を未然に防ぐことは重要な課題だと思います。一度不正行為が発生してしまうと、これまで築き上げてきた信用を失うばかりでなく、失った信用を取り戻すために多大な労力や時間をかけることとなります。

一般的に不正行為は、元々悪い意図(会社から資産を盗んでやろうという意図)を持った人が行うものと考えがちですが、実は悪い意図を持っていなくても、不正行為を行うことが可能な状況にある場合においては、善良な人々も不正行為に手を染めてしまう可能性があるということが研究によって明らかになっています。

今回は、善良な従業員がどのようなシチュエーションにおいて不正行為に手を染めやすくなるのかを解説し、どうすれば不正行為を回避することができるかについてお話ししたいと思います。

今回の参考文献は行動経済学の分野におけるベストセラー『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』です。

不正行為以外にも、行動経済学の観点から様々な事例が紹介されている書籍です。ご興味のある方は是非書籍の方もチェックしてみてください。

チャンスがあれば正直な人でもごまかしをする

不正行為といえば、大抵はお金に紐づくものが多いでしょう。

今回ご紹介する実験は、学生に一般教養のテストをマークシート形式(全50問)で受験させ、正答率に応じて報酬を渡す(1問正答するごとに10セント)というものです。

試験の手順としては、学生は事前に配布された作業用紙に解答を記入後、その解答をマークシートに転記し当該マークシートを試験官に提出します。

この実験では、学生は以下の4つのグループに分類されます。

  1. 普通に問題を解くグループ(対照群)
  2. 配布したマークシートに既に正答が薄い灰色にマークしてある(ごまかしができる)グループ
  3. グループ2の条件に加え、作業用紙を破棄できる(証拠を隠滅できる)グループ
  4. グループ3の条件に加え、マークシートを破棄でき、かつ正答数は自己申告で良いグループ

グループ2から4にかけて不正できるチャンスが大きくなるようにしていますが、実際の結果はどうだったでしょうか。各グループの平均正答数を見てみましょう。

  • グループ1:32.6問
  • グループ2:36.2問
  • グループ3:35.9問
  • グループ4:36.1問

いかがでしょう。当該実験結果から得られた結論について著書の内容を引用します。

 この実験から何がわかったか。第一の結論は、チャンスがあれば、多くの人がごまかしをするということだ。少数の悪いやからが全体の平均を押し上げたのではなく、大多数の人がごまかしをしたこと、そして、ごまかしの程度はわずかだったことがわかった。(中略)

 第二の、もっと思いもよらない結果はさらに印象的だ。実験協力者は、いったんごまかそうという気になったら、見つかる危険があることには左右されなかったらしい。用紙は破棄できないがごまかすチャンスがあったとき、正答数は三二・六問から三六・二問に増えた。しかし、用紙を破棄する——小さな犯罪の証拠を完全に抹消する——チャンスが与えられてもそれ以上は不正を働かず、学生たちは同じ程度のごまかしで思いとどまった。

このように正答数が直接的に現金という報酬に結びついているときは、わずかな不正行為に留まったことが示されました(とはいえ、不正といえば不正なのですが)。

不正行為は現金から一歩離れると起きやすくなる

では、現金に直接的に結びつかないケースではどうなるでしょうか?

先ほどの実験は正答数が現金に結びついている場合における不正行為の結果ですが、別の実験では現金ではなく、現金の引換券を渡した場合はどうなるのかを調べた実験がありますので合わせてご紹介します。

今度は学生に対して、20問の簡単な数字探し問題(足すとちょうど10になるふたつの数字を探す)をやってもらい、1問正答するごとに50セントの報酬を渡します。

今回の実験では、学生を以下の3つのグループに分類します。

  1. 普通に問題を解くグループ(対照群)
  2. 解答用紙を破って捨てて良い(証拠を隠滅できる)グループ
  3. グループ2の条件に加え、正答数に応じて現金ではなく現金の引換券を渡すグループ

それでは、各グループごとの平均正答数をみてみましょう。

  • グループ1:3.5問
  • グループ2:6.2問
  • グループ3;9.4問

いかがでしょう。現金から少し離れるというだけで、正直な人であっても不正を行う確率が格段に跳ね上がることが示唆された実験になります。

企業の実務においても、現金が直接的に絡むものというのは限定的で、むしろ間接的なものが多いと思います。例えば、企業の銀行口座から直接お金を盗むということはあまり考えにくいですが、本来経費にならないものを無理やり経費にねじ込もうとして経理とバトルする、といった事例はどの企業でもよくあることなのではないかと思います。

本来経費にならないものを経費にするということは、企業の銀行口座からお金を盗むことと根元は同じはずですよね。

では、どうすればこのような不正を未然に回避することができるでしょう?

宣誓させるとうまくいく

著書では、「わたしは正直である」と決意表明をさせることで、不正行為を減らすことができるのではないかと述べます。さらに別の実験をご紹介していきたいと思います。

上記の実験と同様に、学生に行列に並べた数字の問題を解いてもらいます。

今後は学生を以下の3つのグループに分類します。

  1. 普通に問題を解くグループ(対照群)
  2. 解答用紙を持ちかえり、正答数のみ申告させるグループ
  3. グループ2の条件に加え、問題を解く前に、無監督試験制度の倫理規定文面に署名させた(わたしは正直であると宣言させた)グループ

各グループの平均正答数は次のとおりです。

  • グループ1:3.5問
  • グループ2:5.5問
  • グループ3:3問

なんと「自分が正直である」と宣言させただけで、対照群とほぼ同じ(不正を行わない)という結果が得られたのです。

この実験から示唆された内容を実務に生かすのであれば、企業の皆さんは従業員の方に対して常日頃から倫理に関する規程やルールを周知するだけでなく、従業員に自ら宣誓させる機会を増やすことにより、不正を行う確率を大幅に減らすことができるのではないかと思います。

よく従業員が入社する際に、機密保持や倫理に関する誓約書のようなものに記名・押印を求める企業も多いかと思いますが、入社時だけでなく、定期的に誓約書の文面を取り交わすことも有効でしょう。是非業務負荷とのバランスをみながら、皆さんのやりやすい方法で実践いただくと良いと思います。

[参考文献]
ダン・アリエリー 著,熊谷淳子 訳『予想どおりに不合理 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』

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